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スコットランドといえば……の、ひとつであるバグパイプ。ただの楽器ではありません。
その名も、 グレート・ハイランド・バグパイプ。
キルトをまとった男性が高らかに吹き鳴らすあの独特の音色は、 耳にしただけで「あ、スコットランド」って連想していただけます。
でも実は、バグパイプはスコットランドだけのものではありません。
名が体を現すように、これは袋(bag)と管(pipe)を合体させた楽器。
起源はペルシャともいわれ、同じ原理で音楽を奏でるものは、 エジプトをはじめとした中近東やアイルランド、フランスのブルターニュ地方、
スペインのガリア地方などで伝承されています。では、なぜ、世界的に“バグパイプ=スコットランド”という 認識が広まったのでしょうか?
それは、現代では日常的にバグパイプを吹く国が あまりないということが、ひとつ。
また、スコットランドのものは “グレート・ハイランド・バグパイプ”といい、 仲間の中でいちばん音量が大きく、目立つのです。
さらに、かっこよくキルトに身を包んで演奏するという スコットランドならではのスタイルが、 とても強い印象を残すからでしょう。
ほかの土地ではこの楽器を演奏するのに 必ず民族衣装を着なくてはならないという習慣はありません。
ここにもスコットランド人のタータンに寄せるプライドが 現れているわけですが、その誇り高く颯爽とした姿といっしょになって 周囲を轟かすように響き渡るバグパイプの音色が
スコットランドらしさの代名詞となったようです。
*Sin-Cos Groupではバグパイプの販売、バグパイプ教室、バグパイプバンドの派遣・をしております。 |
Sin-Cos Groupは以前、ABC放送探偵ナイトスクープで「鳴らせない主婦たち」としてバグパイプの演奏方で取材を受けたことがあります。
バグパイプは吸いながら、吐きながら、腕を、指を、動かしてバグパイプは吹きます。もう少し詳しく説明していきましょう。
グレート・ハイランド・バグパイプ。
先に説明したように、袋とパイプで成り立っています。
音を出すためのパイプは、抱えたときに左肩の上に突き出る3本と 袋の下側の1本。
上の3本はドローンといい、 2本のテナー・ドローンとそれより1オクターブ低いベース・ドローンで 構成され、例の「ブオ〜ン」という単律の伴奏音を奏でます。
メロディーを担当するのは、下側に向いているチャンター・パイプ。 音程を操作できるよう穴が開いていて、
指先ではなく、指の第一関節と第二関節の間の腹でふさぎます。
それからもうひとつ、口元の前にくるのが、 空気を送り込むためのブロー・パイプです。
演奏の原理はいたって簡単で、袋にためた空気を音が出るパイプに 送り込んで鳴らす、というものです。 だからそのために、まずブロー・パイプを口にくわえて
袋をたっぷり膨らませなければなりません。 パンパンに膨らんだら先に3本のドローンから伴奏音が鳴りはじめ、脇に抱えて、さぁ、いよいよ演奏開始。
続いてチャンターからメロディーが流れてきて、 たったひとつの楽器から素晴らしいハーモニーが響いてきます。 しかし、空気が出て行くばかりでは演奏を続けられません。
そこでパイパー(演奏者)は楽器を鳴らしている間ずっと 袋がいつも膨らんだ状態であるように、 中の空気圧を一定に保たなければなりません。
これには、かなりのテクニックが必要です。
ブロー・パイプから空気を送り込んでいる間は 左腕は柔らかく袋を抱え、逆に息継ぎで送り込む空気が 中断されているときにはきつめに押さえる、
そしてまた空気が送り込まれると その勢いで腕は持ち上げられ緩くなる、というように、 呼吸と左腕の連係プレーを上手にしなければならないのです。
しかも、両手の指は旋律を奏でるためにめまぐるしく動いています。
水面をすべるように優雅に泳ぐ白鳥は その下で必死に足を前後に動かしているとよく言われますが、 パイパーたちもまさにそれと同じ、 いえ、もしかしたらもっと大変なのです。
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グレート・ハイランド・バグパイプは 音量がとても大きいと書きましたが、 それにはちゃんと理由があります。 一言で言ってしまえば、それは、単なる楽器ではなく、武器だったからです。
「え、バグパイプに刃物でもついてたの?」 いえいえ、そうではありません。でも、バグパイプはかつて、 敵を大いに震えあがらせるものだったのです。
その昔、ハイランドのクラン(氏族)間の争いにおいて、 パイパーは戦陣のいちばん先頭に立ち、大音量の演奏で 仲間の兵士たちを鼓舞する大切な役割を担っていました。
とはいえ、持っているのは楽器だけの丸腰で、 しかも先頭にいるのですから、パイパーを倒すのは 敵にとっては赤子の手をひねるようなもの。
当然、遠くからでも弓矢で簡単に殺されてしまいます。
ところが、パイパーが倒れるや否や、後ろにいた兵士が 自分の武器は捨ててバグパイプを拾い上げ、 まるで途切れることがなかったかのように演奏を再開。
しかも、死んだパイパーの無念を思いやって よりうまく吹こうと高らかに鳴らしました。 この英雄的な行為が仲間たちの士気を 大いに高めたのは言うまでもありません。
さらに、倒しても倒してバグパイプの音がやまないので、 敵は「相手のパイパーは不死身だ」と恐ろしくなり、 戦いにも弱気になってしまったのです。
味方を勇気づけながら同時に敵に恐怖心を植えつける―― 。
これ以上に効果的な戦略がほかにあるでしょうか? だからこそ、氏族の長たちにとってバグパイプは 自分の軍団に必要不可欠な武器であり、
優秀なパイパーを擁するほど、 戦いに勝利する可能性は高まったのでした。
いまでもスコットランドの各連隊には軍楽隊があり、 連隊のキルトで正装したバグパイプバンドが 自軍の先頭に立って行進します。 ドラムに合わせてパイプを吹き鳴らしていると、
闘争心が燃え立ち、祖国への忠誠心も強く湧き上がって、 非常に誇らしく勇壮な気持ちになるそうです。
バグパイプはやはり、スコットランド人にとっては 気持ちを奮い立たせる楽器です。
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